公益社団法人 日本看護科学学会 JANS
リンク サイトマップ お問い合わせ ENGLISH
トップページ
学会の概要
委員会活動
会員登録情報の変更等
日本看護科学会誌
Japan Journal of Nursing Science
学術論文賞
学術集会
社会貢献活動
JANSセミナー
研究活動に関する見解
転載許可について

トップページ > 研究活動に関する見解 > 「個人情報の保護に関する法律」施行に伴う見解

個人情報の保護に関する法律」施行に伴う日本看護科学学会の見解

> 「研究活動に関する見解」トップ

日本看護科学学会
平成18年9月26日

1.看護と個人情報

看護は、多様な領域の実践活動を通じ、個人・家族・集団・地域の人々の身体的、精神的、社会的、霊的健康の増進を目指す活動である。看護実践のあらゆる場面において対象となる人々がいる。その人々の健康と社会にとって最善の行為を考え、なすべきこととなさざるべきことを追求する看護活動は、常に倫理性を孕んでいる。

このような看護の性質ゆえに、看護にたずさわる者は、これまでも「看護者の倫理綱領」(日本看護協会, 2003)を通して倫理的責任を明示し、自らを律する姿勢を浸透させてきた。看護活動を行う際には人々の「個人情報」へのアクセスが不可欠であることから、上記倫理綱領第5条では、「看護者は、守秘義務を遵守し、個人情報の保護に努めるとともに、これを他者と共有する場合は適切な判断のもと行う」ことが、明示されている。
 
看護学は、学問的基盤に立って看護実践の知識や技術を開発し、普及させ、さらなる向上を目指すものである。日本看護科学学会では、看護が個人情報へのアクセスを前提としていることを自覚し、看護学の発展に寄与する中で学術活動を倫理的に展開することに努めてきた。いくつかの例をとれば、「薬害エイズ問題に関する看護職の倫理的認識と対応の実態」(平成9年)や「臓器移植法による移植医療と看護のあり方に関する見解」(平成13年)を報告している。第21回日本看護科学学会学術集会(会長:片田範子)では、メインテーマを「21世紀に問う看護の倫理性」として遺伝子診断・治療や研究方法論にまつわる倫理の問題を積極的に討議する機会も設けている。また、看護倫理検討委員会は平成2年から活動を継続しており、その間に、看護研究の対象になる人々を守る視点から様々な提言や実態報告を行っている。平成7年には、「看護研究における倫理的配慮に関する検討」、平成9年には「看護系大学における研究の倫理審査の体制に関する実態調査」を本会誌に掲載し、昨年度には、研究倫理審査を推し進める目的で「看護学研究における倫理審査に関するガイドライン」を示したところである。
 
このように、本会では研究倫理のあり方を洗練させていく一連の試みの中で、個人情報の取扱いに関する視点を常に重視し、検討を加えてきている。また、研究倫理の視点にとどまらず、看護学が拡大・発展していく際には常に倫理性を問うてきている。

2.「個人情報の保護に関する法律」の背景と施行後の現状

「個人情報の保護に関する法律」(以下、個人情報保護法)は、高度情報通信社会の進展に伴って個人情報の利用が著しく拡大したことを受け、個人情報の有用性に配慮しつつ、個人の権利利益を保護する目的で平成15年に制定され、平成17年4月より全面施行となった。この考え方の基盤になっているのは、国際的な情報流通の拡大化・IT化の中で、1980年(昭和55年)9月にOECD(経済協力開発機構)が理事会で採択した「プライバシー保護と個人データの国際流通についての勧告」の中の8原則(1.収集制限の原則、2.データ内容の原則、3.目的明確化の原則、4.利用制限の原則、5.安全保護の原則、6.公開の原則、7.個人参加の原則、8.責任の原則)である。ただし、第50条第1項では、報道機関が報道を行う場合、著述業者が著述を行う場合、大学や学術研究を目的とする機関や団体およびそれらに属する者が学術研究を行う場合、宗教団体が宗教活動を行う場合、政治団体が政治活動を行う場合にはこの法の適用が除外されることが謳われている。なお、個人情報保護法における「個人情報」とは、生存する個人に関する情報とされ、氏名や生年月日等の記述により特定の個人が識別されうる情報をいう。

これまで、医療の中であまりにも安易に個人の情報が扱われてきた側面があることは否めない。例えば「研究調査のアンケート回収箱がいつまでも目に付くところに置いてある」「面会簿が無造作に放置されている」「病名や治療方法などが隣ベッドの患者に聞こえている」といった状況があった。法律制定を機会に、保健・医療・福祉の分野においてもこのような現状を見直し、適切な個人情報の取り扱いが考慮されるようになった。しかし、その一方で、「患者対象の研究はすべて拒否されるようになった」「学生が患者を受け持てなくなった」「患者を個人名で呼べなくなった」などの過剰ともとれる反応が一部に見られ、看護研究、教育、実践の各分野において少なからぬ混乱が生じていると思われる。特に、先に述べた第50条の中の「大学その他の学術研究を目的とする機関若しくは団体又はそれらに属する者 学術研究の用に供する目的」であるときには適用除外になるということが、周知徹底されていない。

ところで、研究、教育、実践の各分野において個人情報保護と併せて考えるべきは情報開示である。医療に関する情報を適切に開示することに関しては、平成7年度の厚生白書ですでに指摘されており、医療機関側も患者・家族も開示に対する意識が高まった。たとえば、レセプト開示や医療記録開示の動きはここ数年で加速している。研究倫理の観点からも、主に研究プロセスの透明性確保の点から情報開示の方針を打ち出す機関が増えてきている。

個人情報保護と情報開示は、いずれも適切な情報の取扱を意図したものである。しかし、前者は個人が特定されるような情報が保護される権利であるのに対し、後者は情報を得る(知る)権利である。両者の動きがほぼ同時期に起きたこともあって、二律背反的な矛盾を生み出し、諸現象に対して整理がつきかねている状況が予測される。これまで、看護学あるいは看護学探究に本質的に備わるものとして倫理性を重視してきた本会としては、学会員が置かれている状況を明らかにし、学会としての見解を示すこととしたい。

3.「個人情報の保護に関する法律」施行に伴う調査の結果

「個人情報の保護に関する法律」施行に伴う調査は、平成18年3月から4月にかけて、日本看護科学学会看護倫理検討委員会が中心となって実施した。全会員4407名に送付し、4月末までに回収できた641(14.5%)の調査票をデータとした。個人情報保護法については、638名(99.5%)が知っていると答えており、法施行によって518名(80.8%)が個人情報の扱いに関する意識が変化したと捉えていることがわかった。以下は、看護研究、看護教育、看護実践のそれぞれの領域における調査結果の概要である。

なお、調査結果の詳細は、「報告:個人情報保護法施行に伴う調査」と題して本会ホームページ、および日本看護科学会誌26巻3号(2006)に掲載されているのでご参照いただきたい。

1)看護研究領域の調査結果
法施行後の研究計画書の作成方法においては、これまでと変わらないと答えた会員が181名(28.2%)であり、詳細に記すようになったと答えた会員は390名(60.8%)であった。

研究協力機関へのアクセスに関しては、約半数がこれまでと変わらないと答えているが、214名(33.4%)が協力を得にくくなったと答えている。研究対象者へのアクセスもほぼ同様の比率であり、これまでと変わらないが360名(56.2%)で、協力を得にくくなったと感じているのは177名(27.6%)であった。説明に時間はかかるが研究は受け入れられやすくなったと回答した人はわずかで、研究の説明をする機会すら与えられない、録音を許可されない、患者情報をとらせてもらえないなど、アクセスの困難な状況が実態として挙がった。

第50条の個人情報保護法適用外については、知らないと答えた人(378名、59.0%)が知っていると答えた人(253名、39.5%)を上回っていた。このことから、第50条に関する理解が浸透していないことが研究への協力を得にくい一因ではないかと考えられる。

研究に関する情報開示に関しては、整備されていないと答えた人が多く(39.0%)、検討中が32.8%であった。ただし、実際の開示請求はそれほど行われていない。

2)看護教育領域の調査結果
実習の受け入れに関しては、受け入れ側からの条件が厳しくなったことがうかがえる。受け持ち患者を決める際には、条件がついて難しくなったり、断られたりする状況が多数報告された。中には、すべての患者の同意を得るまでに時間がかかり実習開始に支障をきたしたケースも報告されている。カルテの閲覧は、248名(38.7%)が制限されるようになったと答えている。特に、実習開始前に記録の閲覧ができなくなったという回答が多数であった。 

診療記録や実習記録を実習記録用紙に転記することに関しても、さまざまな制限が加えられるようになったことがわかる。実習記録の管理方法に関しては、368名(57.4%)が変化したと答えている。学外に持ち出さない、不要になったらシュレッダーにかけるといった管理方法への転換が多数みられ、学生に返却せず卒業後に破棄する、記録やメモを回収する、焼却するなどの実態も明らかになった。

患者ケアを行う際には、同意を得ていない患者に近づけない、受け持ち患者以外の見学ができない、ケアの行為ごとに了解をとらなくてはならないなどの変化がみられた。

自由記載欄には、過剰反応である、さまざまな患者にアクセスできない、学生の学びが阻害されているなど、看護教育がスムーズになされにくい様子が記入されていた。

3)看護実践領域の調査結果
患者や住民の記録物へのアクセス方法に関しては、変化があったと答えているのは33人(36.7%)で、電子カルテ等にアクセスするための管理が厳しくなったことがうかがえる。患者や住民の氏名の取り扱いに関しては、28人(31.1%)が変化ありと回答している。

情報開示と情報保護の関係に関しては、家族(患者)は開示を求めるが患者(家族)は情報保護を求める事例や、開示を前提とした記録を書くために否定的なアセスメントや直感的なことを書けなくなった現状などが自由記載欄に記入されていた。

4.日本看護科学学会の見解

個人の病歴データや生活歴等が不適切に扱われることのないよう、その扱いに十分な注意を払うのは看護にたずさわる者として当然である。そのため、個人情報保護法の施行によってこれまでの看護研究、実践、教育上の個人情報の取り扱いに関する考え方が変更されるわけではない。個人情報保護法の施行は、個人情報の取り扱い方法を単にルール化してマニュアルを作成するということではなく、今まで看護にたずさわる者が自律的に行ってきた方法を再確認し、遂行する機会である。

1)看護研究と個人情報
看護研究においては、研究参加者の個人情報保護を行うことが倫理的な研究の実施につながる。そのため、法施行後に、研究計画の段階で個人情報保護に十分配慮するようなったことは評価できる。ただし、個人情報保護法第50条の適用除外に関する理解が浸透していないために、研究の実施を制限・拒否されるケースがみられる。学会員にも第50条の理解が不足している現状から、研究の質・量において不要な制限が課せられている可能性が否めない。法の趣旨を理解した上で、学会として周知徹底していく姿勢を持ちたい。また、研究者は研究依頼文に第50条の趣旨を認めるなどして、研究協力機関や研究参加者への周知を図り、理解を求めていく努力が必要だと考える。

2)看護教育と情報管理
教育においては、個人情報保護法を周知することで、看護が個人情報を取り扱う仕事だという専門職としての意識を学生に根付かせる契機になる。個人情報保護および情報開示の流れの中で、倫理に関する講義や説明の機会が増えている現状も明らかになっている。 

教育現場における大きな変化としては、受け持ち患者の決定方法、記録の閲覧方法、学生の記録物の保管方法に大別されよう。受け持ち患者を決定するにあたって患者の同意を得るというプロセスは、口頭ではなく文書を用いるのが一般的になった。同意を得にくくなった実態が今回の調査で明らかになったが、それを否定的にとらえるのではなく、これまで断りたくても断れなかった方達がいるかもしれないと真摯に受け止めることが必要であろう。ただし、平均在院日数が短縮化傾向にある中で、同意書をとるのに忙しくて指導にあたる時間が削られている実態や、同意書を得なければ学生が患者に近づくこともままならないという状況は見過ごせない。近くに患者がいるのに声をかけたり手をさしのべたりできない状況の方が、むしろ倫理的課題を孕むこともある。教育の機会が極端に失われる状況が進むようであれば、何に同意が必要なのかを、教育機関、医療機関、そして関連学会と共に再考する必要があろう。

学生には、患者ケアに必要な情報と必要でない情報とを選別する能力が十分に備わっていない。そのため、記録へのアクセスに制限を設けることは情報管理上、必然性があると考えられる。しかし、最初から必要な情報だけを与えられたり、アクセスに過度の制限が設けられたりするようになると、学生自身の情報選別能力はさらに低下することが考えられる。情報アクセスに対しては、一律の制限を設けるのではなく、実習の目的や教育ニーズに合わせた柔軟な対応が議論されるべきと考える。

学生の記録物管理に関しては、持ち出さないという取り決めがなされたという回答が最も多く、その他には学生に返却せずに回収する、破棄するなどの対応が目立った。実習受け入れ機関や患者・家族の側に立てば、たとえ匿名性が確保されてはいても、記録を学生がいつまでも持ち続けることに抵抗感を持つのは当然であり、教育機関が責任をもって記録管理を行うべきだと考える。ただし、記録は学生の学習プロセスを形にしたものであることは忘れてはならない。学生の学習が極端に阻害されるような状況は避け、学習ニーズ・教育ニーズに併せた情報管理のあり方が求められる。

3)看護実践と情報管理
実践においては、適切な情報収集・情報管理を行うことが、患者のアドボケイトとしての役割を再認識することにつながる。臨床現場では、電子カルテの導入に伴ってID管理が厳しくなったり、患者の個人名を公にしないための取り組みが工夫されたりしている状況が本調査で明らかになっており、諸機関が適切な情報管理を求めて対応に努力していることは評価できる。

臨床現場で混乱が目立つのは情報開示に関することである。情報開示を想定した記録しか書けないという意見や、個人情報保護を望む患者(家族)と情報開示を求める家族(患者)の狭間で戸惑ったという感想が自由記載にみられた。必要な情報を残すことは医療活動・看護活動にとって不可欠であるため、記録すべき情報の範囲と質が検討されなければならない。また、個人情報保護と情報開示が矛盾をきたすような事例は今後とも想定されるため、部署内カンファレンスのみならず、臨床倫理委員会などを通して当該機関や施設全体で速やかに議論される体制作りが望まれる。

適切な目的に基づいて必要不可欠な情報を選択し、それを看護の対象となる人々や医療者間で共有することは看護の質の向上につながる。個人情報保護法をそれぞれの現場でどのように適用するのかについては、まだ混乱がみられ、今後も継続して議論すべきことが残されている。

個人情報保護法の施行は、情報管理に関するこれまでの慣習を見直し、倫理的な感受性を高める契機である。今回の調査において、研究・教育・実践の看護現場では、情報管理の見直しと対策に積極的に取り組んでいることが明らかになった。それらの取り組みを通じて、これまで看護が行ってきた情報の扱い方を洗練させ、看護にたずさわる者の意識高揚につなげていかなければならない。個人情報を扱うことが前提である看護の機能と役割を社会にアピールし、看護そのものの発展に結びつけるべきだと考える。


5.今後の活動

今回の調査の回答者は全学会員(4407名:平成18年3月17日現在)の14.5%(641名)であるが、個人情報保護法施行に伴う看護現場の現状は大方把握することができた。本結果をもとに、看護の研究・教育・実践の向上がはかれるように学会として啓蒙を続けなければならないと考える。

本会としては、以下の点を中心に今後の活動を続けていく。

1)

学会員の研究の質・量が損なわれないように、個人情報保護法の適用除外(第50条)への学会員への周知徹底をはかる。

2)

看護教育の質が低下することのないように、関連学会や関連団体と連携しながら教育機会の適正を諮る。

3)

個人情報保護と情報開示の混乱が看護の現場で起きぬよう、看護学の見地からそれぞれの解釈を整理する。

以上

ページトップへ戻る